物語の言語構造に注目した、通常の物語構造に対する批判を兼ねた、方法論的実験小説です。日本語という言語表記に基づいて、物語的語りをどこまで解体できるかというところに主眼があります。ただの実験ではなく、読書における認知プロセスの意識化による新しい読書体験が可能となっています。高度に言語操作されていますので、一般的小説とは違いますが、きちんと閉じたストーリーがある、あくまでも自己完結した「物語」です。 最初の部分に、あらすじとその実験方法についての詳細な解説が前書きとして添付してあります。新しい文学の可能性についても触れているので、その部分だけでも現代の文学理論や批評、また現代的創作に興味のある人にはおもしろく読めるのではないかと思います。なお必ず中身を確認してから購入してください。 内容は、「理論解説部分(前書き)」+「美容室(小説)」となっています。 <> 美容室の受付である志麻子は退屈な夫との結婚生活にうんざりしていた。子供ができて気持ちも変わるかと思っていたが、その感じはさらにひどくなっていた。何か新しい世界を持ちたいという理想から努力し、オーナーに認められついに美容室で全体のマネージャーとなり会計などもまかされるようになった。そのころから同じ美容室のスタッフ、望彦とつきあいだす。二人の関係は次第に深まっていく。店が繁盛するとともに、美人で才能がありまた人気の美容師である律美が店にスタッフとして加わった。志麻子は我知らず同性の律美に激しい恋情を抱いていた。だがその自分の気持ちに気づかないせいで、志麻子は律美に強く反感を抱き、二人は反目し合う。そんなとき、美容室の海外慰安旅行があった。志麻子は酒に酔ったときに、自然に律美に好意を告白するが、律美の厳しい拒絶にあう。そこで初めて志麻子は自分の隠された欲望に気づくと同時に、いたたまれないような羞恥を感じる。それはやがて律美に対しての憎悪と変わり、二人は店の中でも対立するようになる。志麻子は腹立ち紛れにオーナーと律美はできているといううわさを流す。それがやがて妻の藤子の耳にも入り、律美の立場は苦しくなる。店の実権を握っていた志麻子は店の金を流用してマンションの一室を借り、望彦と密会していた。あるとき、二人がその部屋で会っているときに、夫がそこにやってきて、ドアを激しく叩く。志麻子たちはいないふりをした。志麻子は夫にそのマンションのことを知らせたのは、律美にちがいないと考える。その後、夫が不倫を強く疑い、家庭の雰囲気が非常に悪くなり、また夫の登場で動揺した望彦に別れをほのめかされた志麻子は、律美への復讐を計画する。望彦が律美を誘惑し、あのマンションの一室に連れ込む。志麻子は前もってそこに隠れていて、二人の前に突然現れて律美に恥をかかすというものだった。望彦は最初は準備に手間や時間がかかると気が進まない様子であったが、志麻子は望彦を強く説得し、忍耐強くそのときを待った。決行当日となり、志麻子は二人を待ったが、二人はついに現れない。望彦にも連絡は取れず、志麻子が店に行ってみると、オーナーから律美が他店に引き抜かれて店をやめるということを聞く。オーナーに律美は店の得意客の名簿を持ち出そうとしているので説得してやめさせてほしいと頼まれる。志麻子が家に戻ると、夫についに離婚を切り出される。志麻子は一瞬動揺するが、とうに望彦と一緒になると決めているので、とにかくその日のうちに望彦を見つけようとする。志麻子は望彦が自分のマンションにいるのを発見し、なぜ来なかったのか激しく責める。律美が店をやめると伝えると、望彦は自分もやめるという。志麻子は夫と別れるので、独立して自分と一緒に店をやろうと提案するが、望彦は二人の別れを切り出すのだった。志麻子は律美との関係を疑う。律美に、社会保険類の書類の返却と店の得意客の名簿のことで話があると連絡し、例の密会用のマンションに呼び出す。その場所に現れた律美は、敵意むき出しで、望彦と付き合っていて、結婚するかもしれないと告白する。志麻子は自分が望彦に付き合えと命じたというと、律美は、逆に志麻子が望彦と付き合っていると知っていたので、自分が望彦を誘惑した、志麻子の使い込みのことも彼から聞いた、それをオーナーにばらすと言う。律美は自分の書類を要求し、部屋を強引に出て行こうとした。志麻子はかっとなって、客の名簿を返せと言いながら、そばにあった花瓶をとり、律美の頭部に彼女が動かなくなるまで何度も打ち付けるのだった。
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